ええやん

わいな、最近は医療機関ツアーで忙しゅうてな、健康なんか不健康なんかわからん状態や。まずは商店街の外れ、N公園の前にできたばっかのN歯科。建物はピカピカ、空気は新品の家みたいにまだ誰の息も吸うてへん感じや。受付の姉ちゃんが丁寧すぎて、ちょっとでも咳したら「大変!」いう顔しよる。いや、そこまで心配されると、逆に不安になるやろ。 次はチャリで5分、船附内科。ここはベテランの先生がおる。診察室入った瞬間、「あんた、また来たんか」という目で見られるねんけど、口では「よぉ来てくれましたなぁ」言うねや。あの目と口のギャップがベテランの風格やろな。「血圧高いで」と言われて、「先生の声のボリュームのせいや」っ 言い返しそうになるのをいつもこらえてるわ。 ほんでラストが、チャリで15分かけて行くK中央病院の眼科。ここがまあ、やさしさのテーマパークや。受付から看護師、検査の兄ちゃんまで、全員そろって「わたし、困った人見捨てられませんねん」オーラ全開や。笑顔で「痛かったら言うてくださいね~」って言われるけど、心の中では「言うたら治療中断されるんちゃうか」と疑ってまうぐらい親切や。 ほんまな、どこも対応は完璧で「通院するのがちょっと楽しみ」になってきとる自分が怖い。考えてみぃな。医者がいい人やからって、病院通いが趣味になってきたら終わりや。健康のために病院行ってるんやなくて、病院のために健康維持してるみたいや。ええ医者に会うんはありがたい。せやけど、できることなら── 「医者の優しさに触れんでも生きていける身体にしてほしいわい」

わいな、きょうはN公園前のN郵便局に、納付書払いの支払いに行ったんや。税金いうやつはな、払わんかったら怒られるくせに、払うたところで誰も褒めてくれへん。ほんま、人生でいっちゃん報われへん作業や思うわ。 受付に若い女性局員がおってな、見るからに今年入ったて感じや。初々しゅうてええねんけど、なんや制服がまだ借りもんみたいやったわ。そしたらその子が言うねん。「ATMでお手続きされたほうが、手数料お安いですよ」て。 ……ああ、また出た。最近どこ行っても「セルフのほうがお得です」や。「お得」言うても、わいにとっちゃ「めんどうが増える」だけやのにな。ほんでな、ATMの前に立ったら立ったで、ボタンの数が寿司のネタより多いねん。どれ押したらええかわからん。 わいが困った顔してたんやろな。その若い職員が、にこっと笑うて言うたんや。「お手伝いしましょうか?」って。──なんや、ええ子やないか。せやけどな、結局、手伝ってもらうなら最初から窓口でやってもろたらええ話やろ。セルフっていったい誰のためやねん。客のためか? いや、どう考えても職員の手間減らしや。 それでも、その子が一緒に画面見ながら「はい、ここ押して、次ここです」てやってくれてな、なんや家庭教師みたいやった。終わったあと「ありがとうございました」言うたら、「またよろしくお願いします」て返された。 ……いや、できれば二度と行かんで済むほうが、わいとしては“よろしく”やねんけどな。

わいな、こないだ自宅の近くの小っちゃい公園の横にある自転車屋、サイクルショップMに寄ったんや。たいした用やあらへん、ただのパンク修理や。しかもそこの店で買うた自転車やないねん。いわば、よその子をよその家に預けに行くようなもんや。そらちょっと気ぃ引けるやろ。 店の親父、年季の入ったツナギ着てて、工具の音が妙にリズミカルなんや。わいが「すんません、ここで買うたんちゃうんですけど、パンクだけ…」言うたら、親父がニヤッとして「ええよ、タイヤに国境はない」みたいな顔して空気入れ始めよった。 ほんならや、パンク直すだけやと思たら、ブレーキのきき具合まで見てくれるし、車輪にまで油さしてくれてな。「これサービスや」言うて笑いながらやってくれたんや。いやもう、親切通り越して慈善活動や。 わい、心の中で「こんな人がまだおるんやなぁ」てちょっと感動したんやけど、同時にこうも思たんや。「もしかしてこのサービスの裏に“次はここで買えよ”の圧が潜んでるんちゃうか」とな。大阪の商売人はな、笑顔の下にちゃっかり電卓隠してるとこあるから油断できへん。 けどな、ブレーキ握ったらキュッと音して、タイヤもスイスイ回るようになって、気持ちよぉ走りながら思たわ。「結局こういう親父のとこが、なんやかんやで一番信用できるんやな」て。ほんで次の角を曲がったとき、わいの頭の中で小さく声がしたんや。 ──「次、パンクしたらここでチューブごと換えてもらおか」。 まんまとやられた気もするけど、まぁ、それも大阪のええ商売っちゅうもんやろな。

わいな、こないだ交番のそばの小っちゃい公園の向かいにある自転車屋に寄ったんや。なんでか言うたら、サイクルベースあさひで買うたチャリンコのグリップの変速カバーがベトベトに溶けて、手ぇが真っ黒になってもうてな。まるでアスファルト握ったみたいな気分や。 ほんで、「あさひ」で買うたやつやし気ぃ引けるけど、とりあえず近所の自転車屋のオヤジに相談してみよか思て立ち寄ったんや。そしたらそのオヤジ、老眼鏡の上からじろっと見て、「あ〜、これ“あさひさん”のやつやな。部品ないねん、うちには」言いながらも、ちゃちゃっと工具持ち出して何か始めよる。 「部品ないから商売にはならんのやけどなぁ」と言いながら、結局グリップのベトつきを拭いてくれて、テープ巻いて、見事に“応急手当”してくれたんや。ほんで最後に「これで当分いけると思うけど、また溶けたら“あさひ”さん行きや」言うて笑いよった。 わい、思わず「そんなんタダでええんですか?」って聞いたら、「ええよ、こんなん金取ったらバチ当たるわ」やて。いやいや、あんたみたいな人おるから、チェーン店が儲かって、町の自転車屋が儲からんのちゃうかと思うたわ。 けどな、帰り道で風きって走りながら、ふと気づいたんや。“あさひ”は大きいけど、あの親父のサービスには敵わん。商売にならんことを笑ってやる——それがほんまの“職人の意地”や。 ……せやけど、あの親父の笑顔見てたらな、次パンクしたら“あさひ”ちゃうて、あの店行こ思てもうてる。うまいこと世の中、できとるわ。




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