大阪支店の話
大阪第二課の空気感が変わり始めたのは、間違いなくあの1月のことだった。 中途で入ってきた希邑は、誰もが知る業界最大手からの「鳴り物入り」だ。そんな彼を迎え入れたのが、私の直属の上司でもある三ケ山さんだった。 三ケ山さんは、一言で言えば「伊集院光」を少し小ぶりにしたような人だ。恰幅のいい体躯に、人当たりのいい笑顔。大阪のコテコテした空気感にこれほど馴染む人もいない。大手出身でどこか「よそ行き」の顔を崩さない希邑を、三ケ山さんは「まあ、ぼちぼち行こうや」と、その大きな背中で受け止めていた。 ところが4月、その緩やかな均衡に、鋭いカミソリのような風が吹き込んだ。 本社から新しい課長として、大島さんが赴任してきたのだ。シュッとした立ち姿に、非の打ち所のない清潔感。テレビで見かける羽鳥慎一アナを彷彿とさせるその佇まいは、雑然とした第二課のフロアで明らかに浮いていた。 最近、デスクに座っていると、背後から聞こえてくる会話の「音」が変わったことに気づく。 三ケ山さんの朗らかな笑い声と、それに合わせる希邑の少し遠慮がちな相槌。 「希邑くん、あそこの大手とはやり方が違うやろうけど、郷に入ればってやつよ」 大島課長の、理路整然とした低いトーン。 「希邑さん、前職のスキームをここに落とし込むなら、もっと効率化できるはずだ」 三ケ山さんは、相変わらず「まあまあ」と間に入ろうとするが、大島課長の「本社のロジック」と希邑の「大手のプライド」が共鳴し始めると、三ケ山さんの伊集院的な温かみが、どこか「古き良き遺物」のように見えてしまう瞬間がある。 希邑も、三ケ山さんには見せなかった「効率重視の顔」を大島課長の前では隠さなくなった。昨日まで三ケ山さんと串カツの話をしていたはずの希邑が、今は大島課長とタブレットを囲んで、スマートに数字を詰めている。 この微妙な変化が、私にとっては最高に面白い。 三ケ山さんの持つ「泥臭い包容力」と、大島課長の持つ「洗練された推進力」。その間で、希邑という優秀なパーツがどう組み込まれていくのか。 第二課は今、三ケ山さんの「ラジオのような安心感」と、大島課長の「朝のニュースのような緊張感」が混ざり合った、不思議なカクテル状態にある。 「……で、どう思う? 君は」 ふいに三ケ山さんが、少し困ったような、でもどこか楽しげな笑顔で私に振ってきた。隣では大島課長が、手元の資料を整...