ストーカー
4月に入って最初の月曜日、新しい生活の始まりだ。この春、私立の女子高校の門をくぐった娘の蛍子が、まだ制服のまま、玄関を開けるなり駆け寄ってきた。 「ただいま! お母さん、聞いて!」 弾んだ声で、彼女は私に告げた。朝の通学途中の出来事だという。 「ね、今日、神宮舎の駅でね、島津くんを見かけたの」 島津くん――その名前を聞くのは久しぶりだった。彼は、蛍子が中学3年の去年の夏、あの殺伐とした高校受験セミナーで知り合った男の子だ。お互いに志望校は違ったけれど、あの頃の蛍子にとって、受験の重圧から少しだけ解放してくれる、特別な話し相手だったのだろう。 蛍子は、どこか落ち着かない様子で、話し続けた。 「それがね、なんか変だったの。島津くん、駅の柱の影に、隠れるみたいに立っていて……」 彼女はそう言って、改札を通り抜けてくる私の方を、じっと見ていたような気がする、と付け加えた。まるで、蛍子が改札を通って、ホームへと歩いていく姿を、確認するように、あるいは見送るように。 柱の影から、そっとこちらを窺う視線。それは、単なる偶然の再会というには、あまりに遠慮深く、そして詮索のようで、微妙な緊張をはらんでいる。 蛍子の新しい高校生活が始まって、彼女の周りの世界は、確かに動き始めている。その動きの中で、かつての夏の記憶である島津くんの存在が、こうしてひっそりと、しかし確かな輪郭を持って立ち現れた。 私立の女子高生になった蛍子と、柱の影に立つ島津くん。 彼らの間に、あの夏にはなかった、言葉にならない感情の微細な変化が、もう始まっているのかもしれない。母親として、私はそっと、娘の頬の高揚と、どこか戸惑いが混じった瞳の輝きを見つめた。 最初の月曜日のあの報告は、まだ「へえ、偶然ね」と笑って流せる、ささやかな春のハプニングという色彩が強かった。 しかし、火曜日の夕方。そして、その翌日の水曜日の晩。帰宅した娘の蛍子は、私に告げた。 「今日もいたよ。神宮舎の駅の、あの柱の影に」 「今日も、私が改札を通って、ホームの方へ歩いていくのを、じっと見てた」 その声は、もう初日のような驚きではなく、どこか定められた儀式を口にするような、落ち着きと、ほんの少しの照れを含んでいた。 たった三日。たった三日連続で、彼はそこに立っていた。それはもはや、偶然などではない。島津くんは、蛍子が新しい生活へ足を踏み入れたのを知...